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先天性心疾患

これから手術をお受けになる患者さん・ご家族へ

 心臓手術は、あらかじめ手術を申し込まれた方から、お子さんの症状や手術の緊急性、ご家族の事情などを考慮した上で手術の日程を決定しています。そのため緊急手術や病床数の不足などの事情から、手術を受けるまでにある程度の期間を要する場合があります。我々はできるだけ早い時期に手術を行うように努力しておりますが、手術予定日の連絡が遅いと思われた際にはご遠慮なく当センターまでお問い合わせ下さい。また入院中は付き添いが必要です。

手術日 火曜日 (前週の木曜日入院)
金曜日 (同週の月曜日入院)

入院時は、当センター小児循環器科に入院していただき、手術に必要な検査をさせていただきます。可能な限り入院時、ないしは手術の数日前に手術の説明をさせていただくように予定を組んでおります。
手術の説明は、大変重要ですので、必ずご両親そろって御聞きいただきます。また説明中はお子様は、当センターの看護師がお預かりし、ご両親に説明に集中していただくよう配慮しております。

説明の内容

ope1.pdf[348KB]

手術は、我々外科医と、小児心臓麻酔を専門とする麻酔科医、経食道エコーを行う小児循環器医、人工心肺を操作する小児専門の臨床工学士、そして熟練した看護師(心臓手術経験3年以上)のチームによって行います。

先天性心疾患 手術チーム

手術後は、大人の方と同じ集中治療室に入りますが、子どもの扱いに慣れた熟練した看護師が担当します。集中治療室では、早期抜管、早期離床を目指し、また抵抗力を強くする為、なるべく早く経口栄養摂取が出来るようにし、ご両親にもお子様の活動性を上げる為にご協力いただくことになります。

集中治療室にいる間は、付き添いが出来ません。しかしこの間、緊急連絡をさせていただく可能性もございますので、病院近辺に宿泊施設を確保していただき待機していただく事になります。 宿泊施設の斡旋はいたします。

集中治療室から一般病棟に戻りますと、再度小児循環器科の担当となり、退院まで、外来を通して一貫した治療を行わさせていただきます。

これらの内容はPDFでもご覧いただけます。

心臓の基本構造

 心臓は、外から見るとポンプの役割をする一つの筋肉の固まりですが、その中は、4つの部屋( 左右心房、左右心室 )に分かれています。特に心臓のポンプとしての役割は、左右心室が行っています。右心室は肺への、左心室は体へのポンプになります。
 心房には全身ないし肺から血液が戻ってくるための血管( 大静脈、肺静脈 )が繋がっており、心室には肺ないし全身に血液を送り出すための血管( 肺動脈、大動脈 )が繋がっています。
 心室は、収縮と拡張を繰り返しています。拡張する事により血液を吸い込み、収縮する事で血液を送り出します。
 左右それぞれの心房と心室の間には、収縮時の心室の血液が心房に逆流しないように逆流防止弁があり、それぞれ 三尖弁、僧帽弁 と呼びます。また心室から全身、または肺に送り出された血液が逆流して心臓に吸い込まれないように逆流防止弁があり、 肺動脈弁、大動脈弁 と呼びます。
 右房、右室には全身で酸素を使い終わった静脈血が流れ、左房、左室には肺で酸素を沢山含んだ動脈血が流れます。
 また左右の心房心室の間には、静脈血動脈血が混ざらないように壁があり、それをそれぞれ 心房中隔、心室中隔 と呼びます。

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皮膚切開 心臓に到達するためには?

正中切開-胸を真っすぐに開けます。

胸骨正中切開
ほとんど大部分の心臓手術

胸骨部分正中切開
心房中隔欠損、心室中隔欠損
など負担の少ない手術

心房中隔欠損閉鎖術は希望により右開胸で行います。
胸骨の後ろに心膜に包まれた心臓があります。心膜を開けると心臓に到達します。

後側方開胸-背中側を斜めに開けます

心臓以外の血管の手術(例えば動脈管開存症など)では、右開胸、左開胸に手術を行う事が有ります。
この場合は、自分では直接見えない部位となる肩甲骨の下方を斜めに数 cm切開します。

心臓の中を手術で治すために必要なことは?

1)心臓の中を空っぽにする。
2)心臓の動きを止める

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1)心臓の中を空っぽにする。

人工心肺  -心臓の中を空っぽにする装置

 上下の大静脈に管を入れ、全身から返ってくる血液をすべて一旦体の外に導き、ポンプに送ります。更にそのポンプの力により、血液から二酸化炭素を排出し、酸素を得るために人工肺を通過させます。これにより酸素化された血液は大動脈に繋がれた管から全身に送られます。この装置により、心臓手術中、心臓と肺を血液が通過する事なく全身に血液循環を保つ事が出来ます。
 大動脈に送られた血液一部は、大動脈の最も心臓に近い部位から出ている冠動脈にも流れます。人工心肺を使うと、心臓の中が空になり、冠動脈に血液が流れ、心臓は血液を送り出す事なく動いたままになります。麻酔がかかって人工心肺を使用している状態は、心臓を車のエンジンに例えると、エンジンだけがアイドリングで動いている状態を想像してください。
 当院では、二人の専門の臨床工学士が専属で手術中この装置を操作しています。

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2)心臓の動きを止める

心筋保護液  -心臓を長時間止めるための特別な液

 心臓が動いたまま細かな手術するのは難しく、心臓の動きを止める必要があります。このため人工心肺から大動脈に送った血液が冠動脈に行かないように、大動脈を遮断し、血液が冠動脈に流れないようします。すなわち心臓の筋肉を酸欠状態にします。ただ単に酸欠状態にしますと、生きている心臓の筋肉が障害を受けてしまい、再び血液を流しても心臓は動かなくなってしまいます。
 そこで安全に長時間心臓を停止させるために 心筋保護液 を冠動脈から心臓の筋肉に注入します。心筋保護液は低温でかつカリウムが多く含まれており、心臓の筋肉が電気的に興奮しない状態を作り、心臓内のエネルギーの消費を抑える働きがあります。

冠動脈に血液が流さずに心臓が止めた場合

心筋保護液 (+) 120分の停止後、心機能が回復する
(-) 10分の停止で心臓の機能は回復しない

心筋保護液で120分間心臓だけを安全に冬眠させていると想像して下さい。

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合併症について

 心臓手術は、人工心肺を用い、心停止で行う特殊な手術です。全くリスクを伴わない手術では有りません。ここで、一般的な心臓手術の合併症について説明します。
それぞれの項目をクリックして下さい。

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■低心拍出量症候群 心不全

-心臓を止める事によって必ず起こる合併症
心臓手術後の血圧の低下

たとえ心筋保護液を使用しても術前の心臓の機能を 100%保存する事は出来ません。
心臓は、冠動脈に血液が流れ、動いている状態が最も生理的です。心臓手術のために心臓を止めると、心臓のポンプとしての力はすこし減少します。これが手術後の低血圧という状態で表れます。
弱まった心臓から血液が体に十分送り出されず、血圧が低くなる状態を低心拍出量症候群と呼び、この状態の改善のために治療が必要となります。

強心剤-心臓の収縮力を高める薬

低心拍出量症候群に陥った心臓の機能を高めるために強心剤を使用します。これにより血圧をより生理的なレベルまで高めます。

胸骨開放

心臓手術後は心臓そのものがむくむ事があります。この場合、胸を閉じてしまうと心臓が圧迫されて心臓の機能が落ちてしまう事があります。この場合胸を閉じず人工膜で覆い、数日後に改めて胸だけを閉じます。

補助循環-薬だけでは心臓の機能が保てないとき心臓を機械で助ける装置

強心剤の投与だけでは、心臓の機能を維持できない時にはきわめて危険な状態になります。この時には物理的に心臓の補助をするために、人工心肺のような装置を取り付け、心臓の機能が回復するのを待ちます。通常数日間を必要とします。

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■出血

-心臓手術には必ず出血を伴う- なぜか?
血液の固まる力(凝固能)を調節するから

 人工心肺は、血液が人工的な管を通り、一旦体の外に出て戻る非生理的な装置です。
 血液は、血管内では固まりませんが、一度血管の外に出ると固まる性質を持っています。血液が固まる事を凝固、その性質を凝固能と呼びます。
 血液が人工心肺の中で凝固してしまうと、人工心肺が使用できません。そのためヘパリンという薬を使い、人工心肺の中で全く血液が固まらなくします。手術が終了するとプロタミンというヘパリンの効果を打ち消すための薬を使い、再び血液が凝固するようにします。しかし、この薬を使用しても完全に血液の凝固能を元に戻らず、手術後も細かな出血を続きます。この出血は術後数日以内で完全に止まります。

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■輸血

心臓手術は輸血の準備なしでは出来ません
輸血が必要となる理由
1)出血 2)人工心肺への充填

 人工心肺には、体のサイズに応じて回路のサイズが変わります。体重が8 kg以下では、人工心肺回路内に血液を満たします。この場合日赤の献血で得られた血液を使用します。体重が8kg以上であれば人工心肺に血液を充填する必要はなく、晶質液(いわゆる生理食塩水等)を満たします。その場合血液は希釈され薄くなりますが、強い貧血状態でなければ輸血しません。
 体重が8kg以上で、術後の出血も少なく強い貧血にならなければ、退院まで輸血を必要としない場合があります。体重が12kg以上の負担の少ない手術の場合は、血液製剤(人、動物の血液から作った薬剤)も使用しないようにしています。
 ただし、貧血が強いと血液による全身への酸素の運搬能が低下し、特に脳への影響が懸念されます。無理な無輸血手術は行いません。

輸血合併症
輸血後感染症 (肝炎、エイズ、白血病など)
移植片対宿主病(輸血した血液が攻撃する)

どれくらいの頻度か?日本中で行われる小児の心臓手術は年約1万件。
一回の手術ですかす血液を数本とすると、日本中で数年に一回しか、このような感染症の可能性がないということになります。
血液によって感染する病気があります。代表的なものとして、 B型肝炎、C型肝炎、エイズ、白血病 などです。頻度は数十万分の1です。
また肉親の血液を使用したいという要望に関しては、お断りをしております。 移植片対宿主病 という輸血した血液が輸血されたお子様自身を攻撃するという病気が有り、これは血縁関係が強いほど起こり易いとされている為です。

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■心タンポナーデ

 心臓の周りに血液が溜まってしまう

手術が終わった時に完全に出血を止める事は出来ません。そのため心臓の周りにドレーンという管を入れ、血液が心臓の周りに溜まらないようにします。もしこのドレーンが詰まったら、心臓の周りに血液が溜まり、心臓を圧迫し、心臓の機能を悪くします。この状態を心タンポナーデと呼び、緊急手術でもう一度胸を開け、溜まった血液を取り出す必要が有ります。

不整脈
頻脈-脈が速くなる 薬で調節
徐脈-脈が遅くなる ペースメーカーが必要

術後心臓の脈が乱れる事が有ります。
通常より速くなることを頻脈と呼び、この場合はほとんど薬で調節可能です。

脈が遅くなることを徐脈と呼びます。薬での調節は困難

房室ブロック -最も問題となる徐脈
- 心房と心室が電気的に繋がらない状態

心臓の刺激は、心臓の中を走る刺激伝導系と呼ばれる神経によって調節されます。心臓の中の修復の際、特に心室中隔欠損を閉じる場合、この神経を障害する可能性があり、その場合心房と心室の電気的な繋がりが無くなり、収縮がバラバラに起こり、特に心室の1分間に動く回数が減少します。
この場合 ペースメーカー が必要となり、この脈が遅くなる状態が 手術後1?2週間経っても戻らない場合は、ぺースメーカーをお腹に埋め込む手術が必要となります。

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■三尖弁逆流

 心室中隔欠損閉鎖に三尖弁組織を一部利用します

 心室中隔欠損を閉鎖する場合、その位置によっては三尖弁の弁組織を使って穴を閉鎖する事が有ります。この場合、三尖弁が変形し逆流が残る事が有ります。

軽度 → 経過観察。正常でも軽度逆流あり
重度 → 弁形成ないし弁置換

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■脳空気塞栓

 心臓に残った空気が頭の血管を閉塞する状態

 心臓手術では、心臓が空になり、空気が入ります。確率は極めて低いですが、頭の血管にこの空気が飛んで、脳に障害を残す事が有ります。
 この場合、目が覚めない、痙攣、手足が動かない等の症状が出ます。

この合併症の発生は極めて稀ですが、残念ながら、もう一度心臓を開けて中の空気を確認する事は現時点では不可能であり、100%未然に防ぐ事は出来ません。

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■肺合併症

人工呼吸、人工心肺に よる肺への影響

気胸 肺が破れる
無気肺 肺に痰が溜る
肺炎 肺の感染
胸水 胸に水が溜る

 手術中は、人工呼吸器により鼻ないし口から気管まで入れた管を通して陽圧呼吸(肺に圧がかかる)を行います。普段私たちは陰圧呼吸を行っています。
 圧により肺が破れる事があります。この状態を 気胸 と呼びます。
 術後肺へ流れる血液の量が増加し胸に水が溜る事があり、これを 胸水 と呼びます。
 気胸、胸水の治療には、胸に管を留置する処置が必要となります。
またスポンジ状の肺からは、手術後たくさん痰が出ます。これをうまく出せないと気道に痰がつまり、肺まで空気が入らなくなり 無気肺 となります。
 このような場所で細菌感染をおこすと 肺炎 になります。

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■神経合併症

横隔神経麻痺 横隔膜が動かなくなる
反回神経麻痺 声帯周囲が動かなくなる

 手術操作の部位によって、神経伝達を障害する可能性があります。主に横隔神経と反回神経がそれにあたります。横隔膜は、息を吸うと下がり、吐くと上がるという呼吸の補助をしますが、神経が麻痺すると横隔膜が全く動かないか、又は、延びて上がってしまう場合が有ります。このためにうまく呼吸が出来ないと呼吸訓練のためしばらく人工呼吸器を外す事ができません。
 反回神経が障害されると、声門周囲の動きが悪くなります。一つは声帯そのものが動かず、声がかすれる嗄声となります。もう一つは声門周囲そのものの動きが悪く、ものを飲み込む時に誤嚥してしまう事があります。

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■感染

 手術により細菌に対する抵抗力が落ちると、感染を起こします。特に 創感染縱隔洞炎肺炎 等が問題になります。術後は抵抗力が回復するまで3日間抗生物質を使用します。抵抗力を術後早く回復させるためには、早期離床と口からの栄養摂取が大切です。
 大きな手術の後大変ですが、お子さんが早く元気になり抵抗力をつけるために、ベッドから離れ体を動かしご飯を食べれるよう、ご家族の方もお子様を勇気づけて上げてください。

 創部については、1週間ほどでしっかりと直ります。手術後一旦皮膚がくっつきますと、そこから細菌が入る事はありません。一旦くっついた傷を頻回に消毒する必要はないと考えています。

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■遺残病変

起こりえる遺残病変-

 本来手術して直るはずの状態も場合によっては、残ってしまう又は手術後再発してします事があります。

たとえば、心室中隔欠損を閉じて、隙間が残ってしまう。 リーク と呼びます。

少量 → 経過観察、自然閉鎖を待つ
多量 → 再手術

その他、血管形成後の再狭窄、弁形成後の弁逆流、弁狭窄など。
これは程度により再手術の適応となります。

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