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大血管疾患

大動脈瘤について

大動脈は、心臓から各臓器に血流を送るための管です。図のように、それぞれの部位には名前がついています。この大動脈が拡大し、「こぶ」のように拡大したものが大動脈瘤です。大動脈瘤は破裂するまでは、全く症状がないことが多いため発見が難しい病気です。しかし、破裂した際には突然死することが多く、運良く病院まで搬送され診断されても緊急手術ができる施設は岩手県では少ないのが現状です。また、緊急手術での成績は不良で20~30%の患者さんは死亡してしまいます。
 大動脈瘤が発見される例としては、検診で胸部 X 線撮影で異常陰影として指摘されたり、腹部に拍動性する「こぶ」が触れるために病院や医院を受診してみつかることがあります。大動脈瘤は破裂前に手術すれば決して恐ろしい病気ではありません。当院における手術死亡率は腹部大動脈瘤(腎動脈分岐部以下)では1%、胸部大動脈瘤では2~3%と近年は改善してきています。検診で異常を指摘されたり、腹部に「こぶ」が触れるときには当院あるいは近くの病院を受診することをお勧めします。

末梢血管疾患

末梢血管の病気について

はじめに

末梢血管には動脈の病気と静脈の病気があります。

 動脈の病気で最も頻度が高いものが「閉塞性動脈硬化症」で、動脈硬化の進行から徐々に血管が狭くなったり、つまってしまう病気です。また、同じように狭窄や閉塞が生じる「バージャー病」という喫煙と密接に関係している病気がありますが、わが国での発症率は減少してきています。さらに手足の動脈が徐々にではなく、突然つまってしまう「急性動脈閉塞(急性上下肢虚血)」という病気があり、これは治すまでにある時間以上を要すると、足の切断や死亡にいたる緊急手術が必要な病気です。また、何らかの原因で動脈がコブ状に膨らみ、破裂の危険が伴う「末梢動脈瘤」という病気があります。

 静脈の病気としては、中年女性に多い、足の静脈が浮き出てくる「下肢静脈瘤」や、エコノミークラス症候群で有名になった、足の静脈の一部が血栓で詰ってしまう「深部静脈血栓症」などがあります。

 これらのうち、当科(心臓血管外科)で取り扱う病気は、主に次の5つと考えていただいてよいと思います。

当科で治療を担当する末梢血管の病気

閉塞性動脈硬化症
バージャー病
急性動脈閉塞症(急性上下肢虚血)
末梢動脈瘤
下肢静脈瘤

閉塞性動脈硬化症とは

 日本人の生活様式の変化に伴って、動脈硬化による病気が増加してきました。その一つがこの「閉塞性動脈硬化症」という病気で、歩くと足が痛くなり歩行不可能になる症状がでます。病気が進行すると最悪の場合、血のめぐりが悪くなり、切断に至ることもあります。病気の原因は、動脈硬化によって足に向かう血管が狭くなり,しまいには詰ってしまい、末梢へ十分な血流が確保できなくなって起こります。
 「血のめぐりが悪くなり、じっとしていても痛みが生じる」ようになった患者さん(重症下肢虚血患者)のうち、1年後には20~25%が、5年後には半数以上が死亡するという、非常に生命予後の悪い病気であることもわかってきました。
 このように種々の癌患者さんよりも生命予後の悪い病気であるにもかかわらず、患者さんの病気に対する理解度が低く、早期に適切な治療が行われていないのが現実です。そして重症化した後、ようやく発見され、すでに切断を余儀なくされることもしばしばあります。
 大切なのは「早期発見」「早期治療」で、現在わが国でもこれを目指した取り組みが進んでいます。まずは、患者さんや医療従事者を含めて、社会全体でこの病気に対する理解を深めることが最優先課題と考えられています。

閉塞性動脈硬化症の症状による分類

I 度 足の冷感や軽いしびれを感じる(無症状)
II 度 ある距離を歩くと足やお尻が痛くなり、休むとまた歩くことができる(間歇性跛行)
III 度 じっとしていても足が痛い(安静時痛)
IV 度 足が(特にゆび先から)黒くなったり、潰瘍ができた状態(壊死)

III度、IV度が重症下肢虚血とされ、早急な積極的治療を要します

閉塞性動脈硬化症の治療

  この病気の治療で最も重要なことは、重症化に関わるさまざまな因子を取り除くことです。糖尿病があると4倍、喫煙していると3倍、コレステロール値や血圧が高いと2倍の確率で、この病気が重症化するといわれています。第一にすべきことは、血糖コレステロール値を下げ、血圧コントロールを厳重にして、禁煙に徹することです。その上で運動療法(しっかり歩く)や薬物療法(血をサラサラにする薬血管拡張剤を飲む)といった保存治療をまず行います。それでも症状の改善がない場合や、すでに重症である場合は、適応を十分に考慮して、必要に応じたバイパス手術やカテーテルによる血管内治療を行います。

閉塞性動脈硬化症の手術治療

 重症の間歇性跛行や保存治療で効果が現れないものは、人工血管もしくは自分の足の静脈を使用したバイパス術の適応となります。III 度、IV度の重症下肢虚血症例は、準緊急もしくは緊急手術適応となります。
 狭くなっている部分や詰まっている部分に応じて、様々なバイパス手術を行います。
 腸骨動脈領域(大動脈が左右の二股に分かれる部分)では血管内治療が第一選択となる場合が多くなってきましたが、石灰化が強いなどの理由でできないときにはバイパス手術が行われます。また血管内治療の長期成績が不良な、そけい部(足の付け根の部分)より末梢の動脈に対してはバイパス手術が第一選択です。
 手術手技は確立されており、安定した初期成績、長期成績が得られることがわかっています。また、膝より下の細い動脈の病変に対しても、患者さん自身の静脈を使用してバイパス術を行っています。
 しかしながら手術治療には全身麻酔が必要で、体の負担がやや大きくなるという欠点があります。

術 前

術 後

閉塞性動脈硬化症の血管内治療

 従来、侵襲的治療はバイパス手術しか方法がありませんでしたが、近年放射線科や血管内科と協力して、腸骨動脈領域(大動脈から左右二股に分かれた血管)に関しては、血管内治療を原則として行っています。完全に詰まってしまっている血管に対しても、ガイドワイヤーを少しずつ通して、その後風船で血管を広げて、さらにステントといわれるバネの様な弾力で血管を拡げるものを挿入する方法で治療します。傷もほとんどなく、手術と違って全身麻酔も要りません。しかし、石灰化(動脈硬化で血管が石のようになった状態)や蛇行がひどい場合、適応外となる場合もあります。

バージャー病(ビュルガー病)

 バージャー病とは、喫煙する20~40代の男性に好発する手足の動脈が狭くなったり詰まったりする病気です。「閉塞性血栓血管炎」とも言われています。手足の指が紫色になって、強い痛みが生じて、潰瘍ができて、最終的には腐ってしまう場合もあります。我が国では年々発症率が低下していますが、現在およそ1万人程度の患者さんがいると言われています。
 はっきりとした原因は不明で、喫煙や歯周炎と関連していることはわかっています。手足の先の方の動脈、静脈両方に炎症が起こって、これによって両方に閉塞が生じます。同時に連なって走っている神経にも影響を及ぼして、強い痛みが起こります。
 閉塞性動脈硬化症と違って、手の血管にも、静脈にも閉塞が生じることが特徴的です。
 現在のところ、治療法は確立されておらず、禁煙が唯一の治療方法とされています。不治の病ではありませんが、タバコを吸い続けると、若い患者さんでも手足の切断に至る事もあります。
 我が国では、難病として国の特定疾患に指定されています。

急性動脈閉塞症(急性上下肢虚血)

急性動脈閉塞症とは

 血栓が生じたり、他から血栓が飛んできたりして(塞栓症)、今まで流れていた足や手の血管が突然詰まってしまう病気です。ゆっくりと時間をかけて、狭くなって詰まっていく閉塞性動脈硬化症と全く違う、一旦起こってしまうと生命にかかわる病気です。
 閉塞性動脈硬化症の場合、長い経過の中で少しずつ「横道(側副枝と呼んでいます)」ができているので、足や手が完全な虚血に至ることはありません。しかし、この病気は急に血管の詰まってしまうため、「横道」もなく、詰まる場所にもよりますが、数時間の経過で切断を余儀なくされる場合もあります。さらに、血の通っていない時間に、筋肉の中にいろいろな悪い物質が蓄積して、血の流れが再開された場合、これらの物質が全身に循環して、最悪の場合心停止を起こしたり、腎不全、呼吸不全に陥る場合もあります。
 阪神大震災の時に、一昼夜以上がれきに足をはさまれて抜け出せなかった被災者が、何とか救出されたにもかかわらず、その後搬送先の病院で亡くなっていくことがたくさんありました。「クラッシュシンドローム」という名前の病気で、ニュースなどでも話題になりましたが、これは圧迫されて、足の先に血が流れていなかった状態から、救出されてまた血がめぐるようになって起こった、同じ病態と考えられます。

もしも急性動脈閉塞症になったら

 「突然、足がしびれて、痛くなって、触るとかなり冷たい。色も紫色。」などという症状が出た場合、数時間は痛みを我慢できるため、翌日の朝、病院がやっている時間に受診する患者さんが多いのが現状です。しかし、この病気は一刻を争う病気で、夜中であっても朝方であっても、緊急である程度大きな病院に行って、これらの症状を訴えてください。「足が痛い!」という症状を訴えるだけだと、整形外科に回されて、病院内で時間が経過してしまう場合もあります。「急に起こった」「冷たくなった」「色が紫色になった」という症状を最初にしっかり訴えることも大切です。
 とにかく、このような症状が出た場合、一刻も早く(救急車を使ってでも)病院に出向くことが、足や手を失ったり、命すらも失うことを防ぐ最も大切な一歩です。

急性動脈閉塞症の治療

 一旦発症すると、全身への血栓溶解療法や血管拡張剤(プロスタグランディン剤)の投与はほとんど無効といわれています。外科的な血栓除去術が唯一の効果を期待できる治療とされています。
 足の付け根や膝や肘などの、詰まっている動脈付近を小さくあけて、フォガティーカテーテルという、先端に風船がついているカテーテルを使って、あたかも煙突掃除をするように、詰まっている血栓を取っていきます。すべての血栓が除去できるとは限らないため、局所的に血栓溶解剤を投与する場合もあります。
 初期治療のポイントは、病気が起こって病院に行って診断がついたらすぐに、それ以上血栓が増えて、さらに中枢の動脈まで詰まってしまわないように、抗凝固剤(通常はヘパリンという薬)を注射で投与することが重要です。
 術後は前に述べた、蓄積した悪い物質が全身に回って起こる臓器不全を少しでも防ぐため、持続透析を行うこともしばしばあります。一旦この悪い物質が全身に悪影響を及ぼす状態(筋腎代謝症候群 MNMSと呼んでいます)に陥ると、死亡率は30~50%と言われています。

急性動脈閉塞症になりやすい人

 この病気に対して、当科で50名の患者さんを調べたところ、「心房細動」という不整脈をもたれている患者さんが75%を占めていました。脳梗塞と同様、この不整脈を指摘されている患者さんは、日頃から「ワーファリン」という抗凝固剤の内服が予防につながります。

急性閉塞時(術前)

血栓除去術後

下肢静脈瘤

下肢静脈瘤とは

 下肢静脈瘤とは、足の血液が心臓に戻りづらくなって静脈が膨らんで瘤(こぶ)状になる病気です。原因は多くの場合、静脈の弁が壊れてしまったために足の先の方へと逆流してしまうために起こります。このためにだるさや、足がつる、さらに痛みなど様々な症状が出てしまいます。 妊娠・出産後の女性や、立ち仕事の方、家族に静脈瘤がある方などに多く発生します。
 病気が進行すると、皮膚に色がついてしまったり(色素沈着)、足のくるぶしの上のところの皮膚が炎症を起こしたり(静脈うっ滞性皮膚炎)、重症の場合は皮膚に欠損(潰瘍)を形成してしまう(うっ滞性潰瘍)ため注意が必要です。

下肢静脈瘤の治療

 下肢静脈瘤の治療は様々な方法がありますが、まずは侵襲のない方法として静脈を上から圧迫するために、弾力(弾性)ストッキングを着用していただいています。
 さらに程度や症状により手術療法などを必要とする場合があります。
 具体的には、静脈結紮術(高位結紮術)、静脈抜去術(ストリッピング術)、静脈瘤切除術、静脈瘤硬化療法などがあります。これらを組み合わせて腰椎麻酔または全身麻酔下に治療を行っています。

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